AT値・LT値・VO2maxの違いとは?持久力を示す3つの指標をわかりやすく解説
ランニングについて調べていると、「AT値」「LT値」「VO2max」という言葉を目にすることがあります。
どれも持久力に関係するため混同しやすいのですが、実際には見ている身体の反応が異なります。
簡単にいえば、VO2maxは「酸素を利用できる能力の上限」、LTは「血中乳酸が増え始める運動強度」、ATは「有酸素運動からより高い強度へ移行していく境目を捉える考え方」です。
この記事では練習方法には踏み込まず、3つの指標の違いと重要性を中級ランナーにも分かりやすく整理します。
AT値・LT値・VO2maxは何が違う?まず全体像を整理

AT・LT・VO2maxは、どれも持久系能力を評価するときに使われますが、同じ数値ではありません。
VO2maxは最大能力、ATやLTは最大に達する前の運動強度における身体の変化を見る指標です。
VO2maxは「酸素を使える能力の上限」を示す
VO2max(最大酸素摂取量)とは、激しい運動をしたときに身体が酸素を取り込み、全身で利用できる能力の上限を示す指標です。
一般的にはmL/kg/分という単位で表されます。
BassettとHowleyのレビューでは、VO2maxは持久系パフォーマンスの上限を決める重要な要素の一つとされています。
一方、実際にどのくらいの速度を長く維持できるかは、VO2maxだけでは決まりません。
VO2maxの何%を持続できるかや、一定の速度で走るために必要な酸素量を示すランニングエコノミーも関係します。
さらに、LTでの走速度にはこれらの要素が反映されるため、持久系パフォーマンスを考えるうえで重要な指標になります。
つまり、VO2maxが高いだけで必ず速く走れるわけではなく、VO2max・LT・ランニングエコノミーをそれぞれ異なる指標として捉えることが大切です(Bassett DR Jr, Howley ET, Medicine & Science in Sports & Exercise, 2000)。
ATとLTは「どこから負担が大きくなるか」を見る指標
ATやLTは、VO2maxのような「最大値」ではなく、運動強度を徐々に上げたときに身体の反応が変化するポイントを捉える考え方です。
運動生理学では、この領域を「有酸素・無酸素性移行領域」として扱うことがあります。
ただし、ATとLTは完全に同義ではありません。
ATは呼吸や乳酸など複数の生理反応から捉えられる広い概念で、LTは血中乳酸濃度の変化を基準に判定する方法です。
LT(乳酸性作業閾値)には、血中乳酸濃度の変化から閾値を求める複数の判定方法があります。
Faudeらのレビューでは、研究によってLTの定義や算出方法が異なり、それぞれの方法で示される運動強度も必ずしも同じではないことが整理されています。
そのため、「LT値」という言葉だけを見て数値を比較するのではなく、どのような測定方法や判定基準で求められたLTなのかを確認することが重要です(Faude O et al., Sports Medicine, 2009)。
AT値とは?「無酸素になる境界」という意味ではない

ATはAnaerobic Thresholdの略で、日本語では「無酸素性作業閾値」などと訳されます。
ただし、「ATを超えた瞬間に酸素を使わなくなる」という意味ではありません。
現在では、その名称や生理学的な解釈について議論が続いています。
ATは運動強度が高まり身体反応が変わる境目の考え方
AT(Anaerobic Threshold:無酸素性作業閾値)は、運動強度を徐々に上げたときに、乳酸や換気などの身体反応が変化する領域を捉えるために使われてきた概念です。
WassermanとMcIlroyは1964年、段階的に運動強度を高めた際にみられる乳酸や換気の変化に着目し、「anaerobic threshold」という考え方を提唱しました。
ただし、ATを「ここから筋肉が酸素不足になり、乳酸が発生する境界」と理解するのは正確ではありません。
現在では、乳酸は酸素がある状態でも産生され、血中乳酸濃度の上昇には乳酸の産生と利用・除去のバランスなど複数の要因が関係すると考えられています。
そのため、ATは「ここから完全な無酸素運動になる境界」ではなく、運動強度の上昇に伴って身体の代謝や換気反応が変化する領域を捉える考え方として理解すると分かりやすいでしょう(Anaerobic threshold: review of the concept and directions for future research.Medicine & Science in Sports & Exercise. 1985;17(1):22-34.PMID: 3884959.)。
ATは測定方法によって意味するポイントが変わる
ATという言葉が分かりにくい理由の一つが、判定方法が複数あることです。
血中乳酸を測る方法だけでなく、呼気ガスを測定して換気量や二酸化炭素排出量の変化を見る方法もあります。
運動負荷試験で呼吸の変化から判定されるポイントは「換気性閾値(VT)」と呼ばれることもあります。
SvedahlとMacIntoshのレビューでは、LT、最大乳酸定常状態、換気性閾値など、ATに関連する複数の測定方法にはそれぞれ一定の誤差があると説明されています。
そのため、「AT値」という数字を見るときは、どの方法で測定された値なのかを確認することが重要です(Svedahl K, MacIntosh BR, Canadian Journal of Applied Physiology, 2003)。
LT値とは?血中乳酸の変化から持久力を見る指標

LTはLactate Thresholdの略で、日本語では「乳酸性作業閾値」などと呼ばれます。
運動強度を徐々に高めたとき、血中乳酸濃度が安静時の水準から上昇し始めるポイントを捉える考え方です。
LTは乳酸が「発生し始める地点」ではない
「LTを超えると乳酸が発生する」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。
乳酸は安静時や低強度運動中にも作られ、同時に筋肉や心臓などでエネルギー源として利用されています。
運動強度が高くなると乳酸の産生量と処理量のバランスが変化し、血中濃度が上昇していきます。
Brooksのレビューでも、血中乳酸濃度は乳酸の産生だけではなく、除去・利用とのバランスで決まることが示されています。
LTは「乳酸が初めて作られる境界」ではなく、「血中乳酸の増え方が変化する運動強度」と理解すると分かりやすいでしょう(Brooks GA, Medicine & Science in Sports & Exercise, 1985/Faude O et al., Sports Medicine, 2009)。
LTは長時間維持できる運動能力と関係する
VO2maxが「エンジンの最大出力」だとすれば、LTは「どの程度の運動強度を持続できるか」を考えるうえで重要な指標の一つです。
BassettとHowleyのレビューでは、持久系パフォーマンスはVO2maxだけで決まるものではなく、VO2maxの何%程度の強度を持続できるかや、一定速度で走るために必要な酸素量を示すランニングエコノミーなども関係すると整理されています。
また、Faudeらのレビューでは、さまざまな方法で求められたLTと持久系パフォーマンスとの関連が検討され、特にランニングでは多くのLT指標が競技成績と高い関連を示すことが報告されています。
ただし、LTには複数の判定・算出方法があり、それぞれが示す運動強度は必ずしも同じではありません。
そのため、異なる方法で測定されたLTの数値を単純に比較するのではなく、どの判定方法が使われたかを確認することが重要です(Bassett DR Jr, Howley ET, Medicine & Science in Sports & Exercise, 2000/Faude O et al., Sports Medicine, 2009)。
AT・LT・VO2maxをどう使い分けて考えればいい?

3つの用語を整理すると、VO2maxは「最大能力」、LTは「乳酸反応から見た持続能力」、ATは「身体が低〜中強度から高い強度へ移行する領域を捉える概念」と考えると理解しやすくなります。
3つを比べると持久力の特徴が見えやすくなる
| 指標 | 簡単な意味 | 主に見るもの |
|---|---|---|
| VO2max | 酸素を利用できる能力の上限 | 最大酸素摂取能力 |
| LT | 血中乳酸の増え方が変化する強度 | 乳酸濃度の変化 |
| AT | 運動強度上昇に伴う生理反応の転換点を捉える概念 | 乳酸・換気などの変化 |
同じVO2maxを持つランナーでも、LTがVO2maxの何%付近にあるか、一定速度をどの程度効率よく維持できるかによって持久系パフォーマンスは異なります。
持久力を考えるときは、VO2maxだけを見るのではなく、LTや運動効率もあわせて考えることが重要です。
JoynerとCoyleのレビューでは、持久系パフォーマンスを左右する代表的な生理学的要素として、VO2max、LT、運動効率(エコノミー)の3つが挙げられています。
VO2maxとLTは、一定時間維持できる酸素摂取量に関係し、さらに運動効率によって、その酸素摂取量でどの程度の速度やパワーを発揮できるかが変わります。
つまり、VO2maxが高いという一つの数値だけで持久力を判断するのではなく、LTやランニングエコノミーなど複数の指標を組み合わせて考えることが大切です(Joyner MJ, Coyle EF, The Journal of Physiology, 2008)。
低酸素環境とAT・LT・VO2maxを考えるときの注意点
低酸素環境では酸素供給条件が通常環境と異なるため、VO2maxや心拍反応、運動強度に対する身体の反応も変化します。
ただし、「低酸素トレーニングによって最大心拍数そのものが向上する」という効果は現在の研究では確立されていません。
MourotとMilletのレビューでは、急性低酸素環境では酸素飽和度の低下が大きいほど最大心拍数が低下する傾向が報告されています。
また、Dorelliらが35研究・524名を解析した2025年のメタ分析では、低酸素下の有酸素トレーニングは通常酸素環境で同様の運動をした場合と比べ、VO2maxへの明確な追加効果を示しませんでした。
低酸素環境は「最大心拍数を上げる方法」と考えるのではなく、通常とは異なる酸素条件で心肺へ刺激を加えるトレーニング環境の一つとして捉えることが適切です(Mourot L, Millet GP, 2019/Dorelli G et al., 2025)。
まとめ|AT・LT・VO2maxは「最大能力」と「持続能力」を分けて考えよう

AT・LT・VO2maxはすべて持久力に関係しますが、意味は異なります。
VO2maxは、運動中に身体が酸素を取り込み、利用できる能力の上限を示す指標です。
LTは、運動強度を徐々に上げたときに、血中乳酸濃度が安静時や低強度時の水準を超えて持続的に上昇し始める運動強度を捉える指標です。
一方、ATは、乳酸や換気などの身体反応から、運動強度の上昇に伴う代謝の転換領域を捉えるために使われてきた概念です。
ただし、LTには複数の判定方法があり、ATも測定方法や研究によって意味するポイントが異なるため、両者を完全に同じものとして扱わないことが大切です。
そのため、数値を見るときは「ATかLTか」だけではなく、「何を測定して、どの基準で判定した値なのか」を確認することが重要です。
また、持久力はVO2maxだけで決まるものではなく、LTや運動効率などを組み合わせて考えることで、自分の特徴をより理解しやすくなります。
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