オートファジー・断食で筋肉を落とさないための対策 ― タンパク質摂取と筋トレの設計
16時間断食(インターミッテント・ファスティング)は「体内の仕組みを整える健康習慣」として関心を集めていますが、断食=痩せる方法ではなく、無理な長時間断食は筋肉量を落とすリスクがあります。
筋肉が落ちる仕組みと、タンパク質摂取・筋トレの併用で対策する方法を整理します。
糖尿病薬・降圧薬・インスリンを使用中の方、妊娠中・授乳中・成長期の子どもには不向きです。
結論:筋肉を守る鍵は「タンパク質+筋トレ」

オートファジーや断食を取り入れる際に筋肉を落とさないための視点は次の3点です。
- 断食は健康習慣であり、痩せる方法ではない:体重減少を目的にすると無理な設計になりやすい
- 無理な長時間断食は筋肉分解のリスク:24時間以上の断食は特に注意が必要
- タンパク質摂取と筋トレの併用で対策:食事時間内での栄養設計と週2〜3回の筋トレが基本
「痩せたい」を目的に断食を選ぶより、健康習慣として無理のない範囲で取り入れ、筋量維持を優先する設計が実践的です。
個人差があり、体調不良を感じたら無理せず中止してください。
断食で筋肉が落ちる仕組みと、断食の位置づけ

「断食=痩せる」は誤解
16時間断食は、体内の仕組みを整えることを目的とした健康習慣とされます。
断食そのものが痩せる方法ではなく、減量の本質はエネルギー収支のマイナス(摂取カロリー<消費カロリー)にあります。
間欠的断食は多くの場合エネルギー収支のマイナスをもたらすことで体重・体脂肪の減少に関与しますが、食事時間内で過剰摂取すれば体重は減らないことが示されています(Hall KD et al., American Journal of Clinical Nutrition, 2012, PMC5568065)。
筋肉分解が起こる状況
断食が長時間になり体内のエネルギー源(グリコーゲン)が枯渇すると、身体は不足するエネルギーを補うために筋肉のタンパク質を分解して糖を作る(糖新生)反応が起こるとされます。
この反応は生存に必要な適応ですが、繰り返されると筋量減少につながります。
- 16時間断食:多くの場合、筋分解の影響は限定的とされる
- 24時間以上の断食:エネルギー不足・栄養不足のリスクが高まり、筋量減少・体調不良のリスク
- 頻回・長期間の長時間断食:継続的な筋量減少のリスクが上がる
間欠的断食は骨格筋のタンパク質代謝にとって必ずしも最適なアプローチとは言えない可能性があるとされており、特にエネルギー不足が重なる状況では筋量の維持・向上に影響しうることが指摘されています(Williamson E & Moore DR, Frontiers in Nutrition, 2021, PMID: 34179054, PMC8219935)。
ただし短期間(10日間)の間欠的断食では筋タンパク質合成速度に有意差が見られなかったという報告もあり(Kouw IWK et al., Clinical Nutrition, 2024, DOI: 10.1016/j.clnu.2024.09.034)、影響の程度は条件によって異なるとされています。
筋肉が落ちるとどうなるか?
筋量が減ると、基礎代謝が下がり、以下のような連鎖が起こりやすくなります。
- 一日の消費カロリーが低下する
- 同じ食事量でも太りやすい体質に近づく
- 姿勢の維持・日常動作の負担が増える
- インスリン感受性の低下など、代謝面への影響も指摘される
筋肉量は安静時エネルギー消費の主要な構成要素であり、骨格筋量の減少が基礎代謝低下・インスリン感受性低下・代謝性疾患リスクの増加と関連することが一般的に示されています(Karakelides H & Nair KS, Current Topics in Developmental Biology, 2005, PMID: 16124998)。
「食事制限だけで痩せる」設計は筋量が減って基礎代謝が下がるため、長期的には減量が停滞しリバウンドしやすい構造につながります。
断食が向かない層
断食は誰でもやっていい健康習慣ではありません。
以下の層は不向き、または医療者への相談が必須です。
- 糖尿病薬・降圧薬・インスリン使用中の方:低血糖リスクがあるため、必ず主治医に相談
- 妊娠中・授乳中の方:胎児・乳児への栄養供給を優先
- 成長期の子ども:成長に必要な栄養摂取を優先
- 摂食障害の既往のある方・傾向のある方:症状悪化のリスク
- 痩せ型・低栄養の方:さらなる筋量減少のリスク
糖尿病薬・インスリン使用中の断食は低血糖・薬剤調整の必要性から必ず主治医に相談することが推奨されており、妊娠中・授乳中・成長期・摂食障害の既往のある層では断食の安全性が確立されていないとされています(De Cabo R & Mattson MP, New England Journal of Medicine, 2019, PMID: 31881139)。
自分が該当するかどうか判断がつかない場合、開始前に医療機関にご相談ください。
タンパク質摂取の設計 ― 食事時間内で十分に摂る

摂取量の目安
筋量維持を狙うタンパク質摂取量の目安は体重1kgあたり1.2〜1.6gとされます。
体重60kgなら72〜96g・体重70kgなら84〜112gが1日の目安です。
74のRCTを対象としたメタ分析では、1.2〜1.59 g/kg/dayのタンパク質摂取が65歳以上の高齢者の除脂肪体重増加と有意に関連し、65歳未満では1.6 g/kg/day以上でより大きな効果が示されています(Nunes EA et al., Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 2022, PMID: 35187864)。
断食で食事時間が短くなる分、限られた食事機会で計画的に摂ることが必要になります。
食事1回あたりの摂取量
タンパク質は1回で吸収利用できる量に上限があるとされ、1回あたり20〜30gを目安に分割摂取することが実践的です。
16時間断食で8時間の食事時間の場合、その間に2〜3回に分けて摂ることが推奨されます。
49のRCT・1,863名を対象としたメタ分析では、タンパク質補給が筋力・除脂肪体重の増加に有意な効果をもたらし、1日総摂取量として約1.62 g/kg/dayを超えても追加の効果は見られないことが示されています(Morton RW et al., British Journal of Sports Medicine, 2018, PMID: 28698222)。
高タンパク質源の例
- 動物性:鶏むね肉、鶏もも肉、豚ヒレ、牛赤身、卵、魚(サバ・鮭・マグロなど)、乳製品
- 植物性:豆腐、納豆、豆類、テンペ、大豆製品全般
16時間断食(食事時間8時間)では、食事時間内での分割摂取が筋タンパク質合成の観点から実践的とされています。
1回20〜40gのタンパク質を3〜4時間おきに複数回摂取する分配パターンが、同量を1〜2回で摂取するパターンと比較して筋タンパク質合成を31〜48%高めることが示されており(Areta JL et al., Journal of Physiology, 2013, PMID: 23459753)、断食中に適切なタンパク質摂取量を維持することで筋タンパク質合成速度が損なわれないことも確認されています(Kouw IWK et al., Clinical Nutrition, 2024, DOI: 10.1016/j.clnu.2024.09.034)。
食事時間内での組み立て例
16時間断食(12:00〜20:00 が食事時間の場合)の設計例
- 12:00:昼食 ― 鶏むね肉200g、玄米、野菜(タンパク質約 40g)
- 16:00:間食 ― プロテイン25g+ナッツ(タンパク質約 25g)
- 19:30:夕食 ― 鮭150g、豆腐、野菜(タンパク質約 30g)
合計約95gのタンパク質を8時間内で確保する構成です。
1回の食事で20〜40gのタンパク質を摂取することが筋タンパク質合成を最大化する上で効果的とされており(Schoenfeld BJ & Aragon AA, Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2018, PMID: 29497353)、食事時間を減らすからこそ限られた時間内でしっかり摂る設計が重要になります。
水分と電解質
断食中は水・お茶・ブラックコーヒーなどカロリーのない水分を十分に摂ります。
長時間の水分不足はめまい・頭痛・倦怠感の原因になるため、意識的な補給が必要です。
断食中はインスリン低下に伴う利尿作用によって腎臓からナトリウムと水分が排出されやすくなり、水分・電解質の喪失がめまい・頭痛・筋けいれん・疲労感を引き起こす主な原因とされています(Brands MW & Manhiani MM, American Journal of Physiology, 2012, PMID: 23034715, PMC3533616)。
特に断食開始から2〜4日は塩分・水分の喪失が多くなるとされており、水分補給に加えてナトリウム・カリウム・マグネシウムなどの電解質の意識的な補給が実践的とされています。
筋トレの併用と、無理をしないという原則

週2〜3回の筋トレを組み込む
タンパク質摂取だけでは筋量維持には不十分で、筋への機械的刺激(筋トレ)が必須とされます。
週2〜3回、以下のような大筋群を狙う種目を組み合わせる形が基本です。
- 下半身:スクワット、ランジ、ヒップスラスト
- 背中:懸垂、ロウイング、デッドリフト
- 胸:ベンチプレス、腕立て伏せ
- 体幹:プランク、デッドバグ
自宅トレなら自重種目を中心に、ジムを利用できるなら重量を段階的に増やすアプローチが実践的です。
筋トレのタイミング
断食中の筋トレは、食事時間の後半〜終盤に行うことで、直後にタンパク質・糖質を補給できる利点があります。
逆に朝の断食終了直前(空腹時)の高強度筋トレは、低血糖リスクや筋分解の可能性が指摘されるため、初心者・中年層には推奨されにくいパターンです。
有酸素運動との組み合わせ
有酸素運動もエネルギー消費を高めるアプローチですが、過剰な有酸素は筋量減少につながる可能性が指摘されます。
筋トレを軸に、有酸素は週2〜3回・中強度で組み合わせる設計が、筋量維持と代謝維持のバランスとして実践的とされます。
無理をしないという原則
以下の症状が出た場合は、無理せず中止してください。
- 頭痛・強い倦怠感・めまい
- 集中力の著しい低下
- 睡眠の質の低下
- 練習中の異常な息切れ・動悸
これらは低血糖・栄養不足・脱水などのサインの可能性があります。
継続する場合は医療機関にご相談ください。
低酸素環境という選択肢
当スタジオ SOLERA では、常圧低酸素環境でのトレーニングを提供しています。
低酸素環境では通常より低い運動強度で心肺系に刺激を与えられるため、時間対効果を求める層に活用されています(Li SN et al., European Journal of Sport Science, 2024, PMC11680552)。
ただし断食中の低酸素運動は低血糖・低栄養状態と組み合わさるリスクがあるため、食事時間内での実施が推奨されます。
効果には個人差があり、既往のある方は必ず医師にご相談ください。
よくある質問(FAQ)

Q. 16時間断食で筋肉は必ず落ちますか?
必ず落ちるわけではありません。
タンパク質を食事時間内で計画的に摂り、週2〜3回の筋トレを組み合わせれば、筋量維持は可能とされます。
ただし24時間以上の断食は筋分解リスクが高まるため注意が必要です。
Q. プロテインは断食中に飲んでいいですか?
厳密なオートファジー活性化を目的とするなら、断食中はカロリーのないもの(水・お茶・ブラックコーヒー)に限定されます。
プロテインはタンパク質を含むため、食事時間内に摂ることが推奨されます。
Q. 筋トレはいつやるのが良いですか?
食事時間の後半〜終盤に行い、直後に食事でタンパク質・糖質を補給する形が実用的です。
空腹時の高強度筋トレは低血糖リスクがあるため、初心者・中年層は避けることが推奨されます。
Q. 24時間断食はやってもいいですか?
24時間以上の断食はエネルギー不足・栄養不足のリスクが高まりやすく、筋量減少や体調不良につながる可能性があります。
一般的には16時間断食までが安全な範囲とされ、24時間以上は医療者の管理下でない限り推奨されません。
Q. 断食で体重が減らないのはなぜですか?
断食は痩せる方法ではなく、健康習慣です。
食事時間内で過剰摂取していれば体重は減りません。
減量が目的なら、断食よりまず食事全体のカロリーとタンパク質を見直すことが実践的です。
まとめ:筋量を守りながら健康習慣として続ける

- 16時間断食は健康習慣で、痩せる方法ではない。
- 無理な長時間断食(24時間以上)は筋量減少・体調不良のリスク。
- タンパク質を体重1kgあたり 1.2〜1.6g、食事時間内で計画的に摂る。
- 週2〜3回の筋トレ(大筋群中心)で筋量維持のアプローチが基本。
- 頭痛・倦怠感・めまいが出たら無理せず中止。糖尿病薬・降圧薬・妊娠中の方は必ず医師に相談。
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