マラソン夏対策の新常識。「暑熱順化」を軸に秋レースの失速を防ぐトレーニング戦略
「夏のマラソン練習をどうするか?」——
秋冬レースを目標にするランナーなら、毎年この課題と向き合うべきです。
水分補給・塩分補給・早朝ランニングといった一般的な対策は広く知られていますが、これらの対策だけでは夏のパフォーマンス低下を根本から解決することは難しいのです。
夏に失速する本質的な原因は、体温調節系が暑熱環境に適応できていないことにあるとされており、この課題に直接アプローチするのが「暑熱順化」という考え方です。
1.マラソンランナーが夏に失速する「本当の理由」は水分不足ではない

夏ランニングで「同じペースなのにきつい」「心拍数が上がりすぎる」という経験をしたことのあるランナーは多いはずです。
その原因を「水分不足」「暑さへの慣れ不足」と片付けて、本質的な対策にたどり着けない可能性があります。
夏のパフォーマンス低下には、より根本的な生理的な背景があります。
まずはここを正しく理解することが、夏対策根本から変えるための出発点になります。
1-1.夏のパフォーマンス低下の本質——体温調節系の「未適応」という視点
夏の暑熱環境で運動すると、身体は筋肉への酸素供給と体温調節という2つの仕事を同時に行う必要があります。
体温を下げるために皮膚付近に血液を集めようとするため、本来であれば運動筋に到達すべき血液量が分散されます。
その結果、同じペースで走っていても心拍数が早くなりやすくなることが、スポーツ生理学の分野で一般的に知られています。
この状態は「体温調節系が暑熱環境に適応できていないこと」にあります。
夏の失速は、水分不足という個別の問題だけが原因ではなく、体温調節システム全体が暑熱環境にまだ慣れていないことが根本的な原因である可能性が高いとされています。
この本質を理解することが、効果的な夏対策の出発点になります。
参照:Gonzalez-Alonso J et al., Journal of Applied Physiology , 1999年
1-2.「水分補給・早朝ラン」だけでは解決しない理由
水分補給や塩分補給は、運動中の脱水や電解質バランスの乱れを防ぐ上で重要です。
ただし、これは「暑熱環境での身体へのダメージを最小限にするケア」であり、「体温調節系を暑熱環境に適応させる」という根本的な課題には直接アプローチしていません。
夏対策「消費を防ぐケア」から「体温調節系を適応させるトレーニング」へ視点を移行することが、秋レースで失速しない身体を作るための新常識として進められます。
その中心的な概念が「暑熱順化」です。
2.「暑熱順化」とは何か?——マラソン夏対策の新しい軸として理解する

暑熱順化という言葉を初めて聞くランナーも少ないかもしれませんが、その内容を理解すると、夏のマラソン練習に対する考え方が大きく変わる可能性があります。
まずは暑熱順化が身体に何をもたらすか、スポーツ科学の知見をもとに整理します。
2-1. 暑熱順化が身体に起こる生理的変化——どう変わるのか?
暑熱順化とは、暑熱環境への継続的な適応刺激によって体温調節系が効率よく機能するようになるプロセスのことです。
スポーツ科学の分野では、暑熱順化が進む過程で以下の変化が起こる可能性があることが一般的に知られています。
1つ目は、発汗の開始タイミングが早くなりやすくなることです。
発汗が早く始まることで深部体温の上昇を抑えやすくなり、体温調節の効率が高まる方向への適応が期待できるとされています。
2つ目は、血漿量が増加しやすくなることです。
血漿量が増えることで心臓が1回の拍動でより多くの血液を送り出しやすくなり、同じ運動強度での心拍数が安定しやすくなる方向への変化が起こりうるとされています。
3つ目は、皮膚付近の血流が増加しやすくなることです。
これにより体内の熱を体表面から放散しやすくなり、体温管理の効率が高まる可能性があると考えられています。
これら3つの変化が重なることで、体温調節系全体が効率よく機能するようになっています。
参照:Sawka MN et al., Comprehensive Physiology , 2011
2-2.暑熱順化が進むと夏のマラソン練習はどう変わる可能性があるのか?
これらの変化が積み重なることで、夏のマラソン練習において「同じペースでも心拍数が安定しやすくなる」「深部体温の上昇が抑えられやすくなる」という方向への適応が可能とされています。
「夏に無理して走り込む」のではなく「体温に調節系を適応させる」という視点の転換が、秋レースで失速しない身体を作るための本質的なアプローチです。
水分補給という「守りの対策」に加えて、暑熱順化という「攻めの対策」を夏トレーニング設計に組み込む発想が、マラソン夏対策の新常識として進められます。
3.暑熱順化を「マラソン夏対策の軸」に置くための基本的な考え方

実際にマラソン夏対策の軸として組み込むための基本的な考え方を整理します。
3-1.暑熱順化に必要な期間と段階的なアプローチの重要性
暑熱順化が安定した状態に達するまでには、一般的に4〜6週間程度が必要とされています。
初期変化(血漿量増加・発汗開始タイミングの変化)はおよそ5〜10日で発生開始の可能性があるとされていますが、安定した適応にはそれ以上の継続が必要です。
適応が始まる前の段階で強度の練習を行うことは、適応ではなく先行消費するリスクがあるとされています。
夏対策として暑熱順化に取り組む際は、最初の1〜2週間を低強度で身体を慣らす期間として、その後徐々に強度を上げていく設計が妥当とされています。
参照:Périard JD et al., 2016
3-2.秋レースから逆算する——「いつから始めれば間に合うか?」
大阪マラソンや京都マラソンを目標とするランナーが9月からの走り込み期に万全の状態で入るためには、7月中旬〜8月上旬には暑熱順化への取り組みを開始していることがベストと考えられます。
秋レースへの暑熱順化対策軸に沿って考えるなら、「今すぐ始めること」が最も合理的な判断です。
夏をただじっくり過ごすのか、体温調整系を整える期間として積極的に活用するのかで、秋以降の練習の質が変わってくる可能性があります。
4.なぜ京都の夏は屋外だけの暑熱順化対策では限界があるのか?

段階的な暑熱順化の重要性を理解した上で、次に取り組む現実的な課題があります。
それは、京都の夏の屋外環境では「段階的な強度管理」を実現することが難しいという問題です。
京都在住またはSOLERAへのアクセスが良いランナーにとって、この視点は夏の練習設計を考える上で特に重要になります。
4-1.盆地特有の酷暑が「適応」ではなく「消費」を考慮したリスク
短期の観測データによると、京都の夏は盆地特有の高温多湿が重なり国内でも特に厳しい気候環境となります。
暑熱順化が効率的に進むためには身体が適応できる範囲の刺激を継続的に与え続けることが重要とされています。
気温35℃を超える日が続く京都の屋外環境はその「適応できる範囲」を超えた過剰な暑熱ストレスを与えやすい状況です。
過剰な暑熱ストレスは適応プロセスを促進するために、消費をさせて熱中症リスクを高める可能性があると考えられています。
参照:Périard JD et al., 2016
4-2.屋外練習では管理しきれない「刺激の質」という問題
段階的な暑熱順化を進めるためには、週ごとに刺激の強度を調整することが重要とされています。
ただし屋外での練習は気温・湿度・日差しという外的条件に左右されるため、同じペース・同じ距離で走っても気温が変わるだけで心拍数や体温への負荷が大きく変化します。
最大心拍数の60〜75%程度の強度を維持しながら段階的に負荷を上げていくという管理を、気温が日によって大きく変動する屋外環境で極限に実現することには構造的な難しさがあると考えられます。
「今日は暑すぎて想定以上に消費した」という状況が見られると、4〜6週間という期間設計の精度が下がり、暑熱順化の質に影響が出る可能性があります。
参照:Périard JD et al.「Heat Acclimatization to Improve Athletic Performance in Warm-Hot Environments」
Gatorade Sports Science Institute (SSE #153) , 2015
5.低酸素スタジオが「マラソン夏対策」の選択肢として合理的な理由

屋外での暑熱順化対策の限界を踏まえた上で、空調管理された室内の低酸素スタジオという選択肢がマラソン夏対策として合理性を持つ理由を整理します。
5-1.体温ストレスを管理しながら心肺・体温調節系への刺激を維持できる環境
低酸素スタジオでは外気温・湿度の影響を受けずに一定の環境条件でトレーニングを継続できます。
低酸素環境では通常よりも運動強度が低くても心拍数・深部体温が上昇しやすくなる可能性があるとされております、暑熱ストレスなく心肺・体温調節系への刺激を届けやすい環境として機能しうると考えられています。
「京都の酷暑で消費しながら走る」のではなく「空調管理された環境で心肺・体温調節系への適切な刺激を行う」という選択が、夏対策として妥当な可能性があります。
参照:Muza SR et al., US Army Research Institute of Environmental Medicine , 2004
5-2.屋外練習との組み合わせで「夏対策の精度」を高める考え方
低酸素スタジオは屋外ランニングの「代替」ではなく「併用」として継続することが、夏対策の精度を高める上で妥当と考えられています。
気温・湿度が比較的穏やかな早朝に屋外でフェーズに応じた強度のランニングを行い、週1〜2回の室内低酸素セッションで刺激の質を補完するという組み合わせが、暑熱順化を軸にした夏対策の設計として考えられます。
SOLERAでは低酸素トレーニングの専門研修を受けたスタッフが常駐しており、体力レベル・目標レース・体調に応じた強度管理のサポートが可能な環境を整えています。
参照:Dufour SP et al., American Journal of Physiology
6.今すぐ始める夏対策が、秋レースの結果を決める

暑熱順化を軸にした夏対策の全体像が見えてきたところで、最後に「なぜ今すぐ始めるべきなのか?」という問いに答えます。
6-1.大阪マラソン・京都マラソンへの逆算——夏対策の「開始タイミング」
暑熱順化に必要な4〜6週間という期間と9月以降の走り込み期への移行を考慮すると、7月中旬〜8月上旬が暑熱順化への取り組み開始の目安として妥当と考えられます。
夏をどう過ごしたかによって、秋のレース本番で身体が暑熱環境にどれだけ対応できるかが変わってくる可能性があります。
6-2.高地トレーニングスタジオ SOLERA 京都四条烏丸店で始める「暑熱順化を軸にした夏対策」の始まり
SOLERAは低酸素トレーニングの専門研修を受けたスタッフが常駐しています。
体力レベル・目標レース・体調に合わせた強度管理のサポートが可能な環境を整え、「暑熱順化を夏対策の軸に置きたい」「段階的な行動を正しく進めたい」と考えているランナーの方を丁寧にサポートします。
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