女性のVO2max平均値とアスリートの数値 ― 男女差の背景と目指す指標
女性のVO2max(最大酸素摂取量)の平均値・厚生労働省が示す性別・年代別基準値・アスリートとの比較を、公的な基準値をもとに整理します。
男女差の生理学的な背景、そして女性が自分の数字を評価するときの読み方まで、体系的に解説します。
結論:女性のVO2maxは「女性の基準」で評価する

女性のVO2maxを評価する視点は次の4点です。
- 厚労省の女性用基準値がまず参照される:18〜39歳=33/40〜59歳=30/60〜69歳=26 ml/kg/分
- 男性の数値と単純比較しない:生理学的な差を反映した設計で、性別内で相対評価する
- 加齢による低下率は女性の方が高い:年間 0.54 ml/kg/分(男性 0.46)とされ、早期からのVO2max維持に取り組む意義が大きい(Jackson AS et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 1996, PMID: 8832543)
- アスリートの水準は参考値:女子トップマラソン選手で 60〜75 ml/kg/分の水準。一般女性が到達する必要はない
女性がVO2maxを見るときは、「男性より数値が低い=運動能力が劣る」ではなく、「性別に応じた基準値と照合し、加齢による低下率が男性より高いことを踏まえて早期から維持に取り組む」視点が実践的です。
過度に高い数字を追わず、公的基準を上回る水準を維持することが、健康寿命の視点では最も現実的なアプローチです。
厚労省が示す女性のVO2max基準値

生活習慣病の発症・死亡リスク低下が期待される基準値として、厚生労働省が示した女性の数値は以下の通りです。
女性の性・年代別基準値(ml/kg/分)
| 年代 | 基準値 |
|---|---|
| 18〜39歳 | 33 |
| 40〜59歳 | 30 |
| 60〜69歳 | 26 |
出典:厚生労働省「健康づくりのための運動基準2013」
男性基準値との比較
参考として男性の基準値は以下の通りです。
| 年代 | 男性 | 女性 | 差 |
|---|---|---|---|
| 18〜39歳 | 39 | 33 | 6 |
| 40〜59歳 | 35 | 30 | 5 |
| 60〜69歳 | 32 | 26 | 6 |
男性の方が5〜6 ml/kg/分ほど高く設定されていることが分かります。
この差は「女性が劣っている」のではなく、後述の生理学的差を反映した合理的な設計です。
加齢との関係
女性の基準値も男性と同様に、加齢に伴って段階的に下がっていきます。
18〜39歳の33から、60〜69歳では26へと約20%低下する設計となっています(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」)。
VO2maxは30歳を過ぎると10年ごとに約10%低下するとされており、109研究・4,884名の女性を対象としたメタ分析では、運動習慣の有無に関わらず相対的な低下率が10年あたり約10%(-10.0〜-10.9%/decade)であることが示されています(Fitzgerald MD et al., Journal of Applied Physiology, 1997, PMID: 9216959)。
加齢による変化を織り込んだ現実的な基準となっています。
加齢による低下率の男女差 ― 早期に取り組む意義
VO2maxは加齢に伴って低下しますが、男性と女性でその変化パターンに違いがあるとされています。
男性のVO2max低下については、1,499名の横断データと縦断データを組み合わせた研究で年間0.46 mL/kg/minの低下が報告されており(Jackson AS et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 1995, PMID: 7898326)、女性についても同様の縦断研究が報告されています(Jackson AS et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 1996, PMID: 8776228)。
ただし男女の低下パターンを比較した大規模レビューでは、低下は男女ともに非線形であり、年代によって加速することが示されています(Letnes JM et al., Int J Cardiol Cardiovasc Risk Prev, 2023, PMC9975246)。
特に縦断データでは70代以降で10年あたり20%を超える加速的な低下が報告されており(Fleg JL et al., Circulation, 2005, PMID: 16043637)、40代・50代の早い段階で運動習慣を確立することの意義は男女ともに大きいといえます。
個人差はあり、既往のある方は医療機関にご相談のうえ運動プログラムを組むことが推奨されます。
男女差の生理学的背景

女性のVO2maxが男性より低く設定されている背景には、複数の生理学的要因があります。
心臓のサイズ
男性の心臓は女性より平均して大きく、1回の拍動で送り出せる血液量(1回拍出量)が多くなります。
VO2maxは「1分間に送り出せる血液量×動静脈血酸素較差」で規定されるため、心臓のサイズが数値の上限に直接影響します。
男性は女性と比較して左室容積・壁厚が大きく1回拍出量・最大心拍出量が高いことが、スポーツ科学の分野で一般的に示されています(Cardinale DA et al., International Journal of Environmental Research and Public Health, 2022, PMC9105160)。
血液中のヘモグロビン濃度
酸素を運ぶ役割を担うヘモグロビン濃度は、男性の方が女性より約10〜20%高い傾向があります。
これはアンドロゲン(テストステロン)による骨髄・腎臓への直接的な刺激作用と、エストロゲンによる骨髄への抑制作用によるものとされています(Santisteban KJ et al., 2022, PMC9105160)。
ヘモグロビン濃度が高いほど同じ血液量でも運べる酸素量が増えるため、VO2maxの上限に影響します。
女性は月経に伴う血液の喪失もあり、鉄欠乏には特に注意が必要とされます。
筋量・体組成の差
VO2maxは体重で正規化されますが、体重に占める筋量比率も数値に影響します。
男性は女性より筋量比率が高く脂肪比率が低い傾向があり、同じ体重でも筋量が多いほうが酸素消費の効率が高くなる側面があります(Holdsworth DA et al., Clinical Endocrinology, 2026, DOI: 10.1111/cen.70150)。
ホルモンの影響
テストステロンなどのアンドロゲン系ホルモンは赤血球産生や筋合成を促進します。
男性のテストステロン濃度は思春期以降に女性の約30倍に増加し、筋肉量・ヘモグロビン量・骨格サイズ・心拍出量の増大をもたらすことが、米国スポーツ医学会のコンセンサスステートメントで示されています(Hunter SK et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 2023, PMID: 37772882)。
これが心肺機能・酸素運搬能の上限に関与するとされています。
「差」の意味
これらの生理学的差は、女性が努力しても縮まらない絶対的な差ではなく、「同じトレーニング量でも到達可能な上限に差がある」という意味です。
健康寿命・生活の質という視点では、自分の性別基準を上回るVO2maxを維持することの意義は男女とも変わりません。
女性の目指す指標と実践的アプローチ

一流女性アスリートの水準(実測値)
女性トップアスリートのVO2max実測値として、以下の数値が報告されています。
- 世界選手権入賞経験を持つ女子マラソン選手:61.7 ml/kg/分(原村ら, 2014)
- 元日本記録保持者・増田明美選手:72 ml/kg/分
- 女性の世界最高記録:ジョアン・ベノワ選手(1984年ロサンゼルス五輪マラソン金メダリスト)78.6 ml/kg/分
一般に、女子トップマラソン選手のVO2max は 60〜75 ml/kg/分の水準にあるとされます(男性トップアスリートは 80〜90 ml/kg/分)。
この水準は先天的要素(心肺機能の設計)とトレーニングの累積効果の両方が関与する領域で、一般女性が到達する必要のある数字ではありません。
参考値として位置を把握することで、自分の目指す水準を過大に設定しない目安になります。
市民ランナー上位の水準
サブ3(フルマラソン3時間切り)を目指す女性市民ランナーは、50 ml/kg/分前後の水準にあるケースが多いとされます。
サブ4(4時間切り)の女性ランナーは 40〜45 前後がひとつの目安となります。
競技志向で数字を追う場合の指標となります。
一般女性が現実的に目指す指標
健康維持・生活習慣病リスク低減が目的なら、まず厚労省の性・年代別基準値をクリアすることが第一目標です。
40代女性なら30、50代女性でも30、60代女性なら26を上回っていれば公的基準はクリアしています。
過度に高い数字を追う必要はありません。
40歳以降のスタート地点
40代・50代からトレーニングを再開する女性でも、適切な運動プログラムによってVO2maxの改善は可能とされます。
年齢を理由に諦める必要はなく、継続することで加齢による低下の傾きを緩やかにするアプローチが有効とされます。
心血管系リスクを伴うため、開始前には医療機関でのメディカルチェックが推奨されます。
女性がVO2maxにアプローチする実践的な方法

有酸素運動の継続
週に150分程度の中強度有酸素運動が、VO2maxの維持・向上に寄与する運動量として広く参照されています(Garber CE et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 2011, PMID: 21694556)。
ウォーキング・ジョギング・自転車・水泳・エリプティカルなどが該当します。
習慣化が最も重要とされており、週あたりの運動時間が少ないほどVO2maxの改善効果が低下する傾向があることが示されています。
月2〜3回の集中運動より週3〜4回の継続のほうが心肺系への刺激が安定して積み重なり、VO2maxの改善に関与しやすいとされています(Garber CE et al., 2011)。
女性特有の配慮
月経周期に伴う体調変化・貧血リスク・骨密度の維持など、女性特有の視点でトレーニングを設計することが推奨されます。
特に鉄欠乏はVO2maxに直接影響するため、食事からの鉄摂取や定期的な血液検査が実践的です。
産後・更年期・閉経後など、ライフステージに応じたプログラム設計も重要とされます。
低酸素環境でのトレーニング
当スタジオ SOLERA では、常圧低酸素環境でのトレーニングを提供しています。
標高2,000〜3,000mに相当する酸素濃度で運動することで、通常の環境より低い運動強度で心肺系に刺激を与える設計です。
VO2max維持・向上を目的とする女性の選択肢の一つとして活用されています。
個人差はあり、効果を断定するものではありません。
妊娠中・重度の貧血がある方などは、医師にご相談のうえご検討ください。
高強度インターバル(HIIT)
短時間で心肺系に高い刺激を与えるHIITは、VO2max向上に有効なアプローチとして知られています。
ただし心拍上限が高くなるため、心疾患等の既往のある方は必ず医師にご相談ください。
よくある質問(FAQ)

Q. 女性が男性と同じ数値を目指す必要はありますか?
必要ありません。
男女の基準値は生理学的差を反映して設計されており、自分の性別・年代の基準値と照合することが実践的です。
女性が男性の数字を追うことは、無理な目標設定になりがちです。
Q. 女性のVO2maxが低いのは運動不足のせいですか?
一部は運動不足の影響ですが、生理学的な男女差もあります。
女性の基準値をクリアしているなら、男性より低い数値でも健康リスクの視点では十分な水準です。
「低い」の意味を、性別を踏まえて読むことが大切です。
Q. 月経周期でVO2maxに影響はありますか?
月経周期に伴い基礎体温・水分バランス・心拍数などが変化し、パフォーマンスに影響が出るケースがあります。
月経中の貧血傾向がVO2maxに影響することもあります。
継続計測時は、周期の影響を織り込んで解釈することが推奨されます。
Q. 出産後にVO2maxは戻りますか?
産後の身体変化を経て、適切な運動再開により産前の水準へ戻ることは可能とされます。
ただし個人差があり、産後1ヶ月健診で医師の許可を得た後の運動再開が推奨されます。
無理のない範囲でのスタートが基本です。
Q. 更年期以降もVO2maxの改善は可能ですか?
適切な運動プログラムによって、更年期以降でもVO2maxの維持・改善が期待できるとされます。
加齢による低下は避けられないものの、その傾きを緩やかにするアプローチは有効です。
既往のある方は医療機関にご相談ください。
まとめ:女性は「基準値クリア」と「早期からの維持」の二軸で

- 女性の厚労省基準値は 18〜39歳=33/40〜59歳=30/60〜69歳=26 ml/kg/分(厚生労働省 2013)。
- 男女差は心臓サイズ・ヘモグロビン濃度・筋量・ホルモンなどの生理学的要因を反映した設計。
- 加齢による低下率は女性の方が高い(年間 0.54 ml/kg/分 vs 男性 0.46 )。早期からの維持アプローチの意義が大きい。
- 一流女性アスリートは 61.7〜78.6 の水準。一般女性は自分の基準値クリアを第一目標に。
- ライフステージに応じた設計と、鉄欠乏への配慮が女性特有の実践ポイント。
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